建築の専門用語は一般には馴染みにくいものですが、その中でも「王様」はこれでしょう。
「かなばかりず」 と読みます。
見た目は断面図の拡大版ですが、実はそうではありません。
大手設計事務所での新入社員時代、最初に担当したのは鉄筋コンクリート造の高級マンションでした。
そのとき、矩計図を描く楽しさを知ったのです。
まだ手描きも残っていた時代、私は机に描きかけの矩計図を広げっぱなしにして、あらゆる図面をその上に置いて描いていきました。
デザイン、スケール感、空間イメージ、外観のプロポーション、法規、構造、設備、断熱、採光、通風、防湿、そしてコスト....
矩計図とは、そのすべてを網羅する図面です。 建物のすべてを理解しなければ描けない図面なのです。
実施設計の最初に描き始める、そして最後まで描き続ける図面です。
巨匠といわれる建築家の名作は、例外なく美しい矩計図を描かれています。
建築の平面計画は、求められる機能によってある程度制限されます。
つまり、平面は依頼主のものなのです。
しかし断面計画は設計者だけが知っているもの、誰が何と言おうと自分のものだ、と思ってきました。
私は、平面図を一切描かずに、断面のスケッチから始めることがよくあります。
魅力的な断面があれば、平面は論理的に自ずと決まっていく、と思えます。
良い断面にするためには、矩計図をたくさん描く必要があります。
逆に言えば、1、2枚の矩計図で表現できてしまうような建築は、つまらないと思います。
dueでは、通常10枚くらいの矩計図を描いています。
ノート一覧へ