大好きだった棟梁のTさんが病気で亡くなったときのことを思い出します。
私たちが富山へやってきてから、何棟かの家を彼とともに造ったのです。
木造のイロハを教えて下さった、大先輩であり師匠でした。
私たちは、新鮮な現代建築に伝統的な木造技術を融合させようとしてきました。
Tさんは、新しいデザインをすぐに消化され、設計図よりさらに良くしようとして下さいました。
もちろんプレカットなどは使わず、全て手刻みの仕事でした。
手先が器用な大工さんはたくさんいます。
でも、Tさんのように、膨大な設計図から全体像を読み取り、俯瞰し、責任を持てる人は少ないのです。
常に3次元的な思考をされ、頭の回転の速さには脱帽させられるほどでした。
真の意味での棟梁とは、Tさんのような人を指すのでしょう。これから私たちは、このような大工さんに巡り会えるでしょうか。
しかしTさんは、元気なうちにひとりの若い弟子を育てられました。S君はすっかり一人前で、優秀で男気のある大工になりました。
日本の木造技術は、こうして受け継がれてきたのです。
それにしても惜しまれる、早すぎる死でした。
それでも、15歳から50年間、最後まで現役で働き続けたTさんの人生は、幸せだったのだろうと思います。