建築の設計・監理は経験がものをいう仕事ですが、その経験が邪魔になる場合もあります。
この1年くらい、ちょっと考え直していることがあります。
要求に応えるうちに家が高機能化し、全体的にスペックが向上しすぎているかもしれない、と。
私たちのプランニングやデザインは、毎回全く異なります。
しかし暖房、断熱、構造、仕上げ、材質、細かなディテール・デザインなどの仕様・スペックについては、評価や満足度が高いものは、もう一度採用したくなります。それらの経験がどんどん積み重なって、性能・品質は向上しています。
それは進歩でもありますが、落とし穴もあるように思います。
私たちは、「その住まい手にとって本当に必要なもの」を見極め、発想し、心と体がぴったりフィットする家を目指しています。
ひとつとして同じ家族や敷地環境は存在しませんし、コストは限られています。
実績のある高い品質や仕様が過剰スペックとなって、本当に必要なものを圧迫するとしたら本末転倒です。
毎回、真っ白なキャンバスに戻すことが、私たち建築設計due の「色」であるはず。
引き出しは増えても、足し算はしないこと。これまで積み上げたものを、勇気をもって突き崩そうと、自分に言い聞かせています。
それは、新しいものを生み出すのと同じくらい難しく、強い意志が必要で、クリエイティブな作業だと感じています。